[NEW LAUNCH!] クラウド上でクリエイティブスタジオを構築する新サービスAmazon Nimble Studioがリリースされました!
はじめに
清水です。AWSよりAmazon Nimble Studioという新サービスが発表されました。AWSクラウド上にVFXやアニメーションなどのコンテンツ制作を行うクリエイティブスタジオをサクッと構築できるのが特徴です。本エントリではこの新サービスについて速報としてまとめてみます。
- Amazon Nimble Studio – Build a Creative Studio in the Cloud | AWS News Blog
- AWS announces general availability of Amazon Nimble Studio
アニメーショングラフィックスを制作する際、アーティスト(クリエイター)が操作するワークステーション、制作に必要なファイルを保管するストレージ、また実際にアニメーショングラフィックスを生成するコンピューティングリソース(レンダリングファームと呼ばれます)が必要になります。AWSではこれまでも、このクラウド上でのコンテンツ制作分野に力を入れてきました。例えばre:Invent 2019のセッション「Studio in the cloud: Content production on AWS」でもクラウド上でコンテンツプロダクション用スタジオを構築する方法について紹介していました。 *1 また2017年にコンテンツ制作ツール開発会社のThinkbox Softwareを買収、現在はAWS Thinkboxとしてサービスを展開しています。 *2
しかしワークステーションやストレージ、レンダリングファームの構築は、リファレンスとなるアーキテクチャは例示されていたとしても、それらを素早く、また拡張性やセキュリティを保ちながら構築するのは容易ではなかったかと思います。
そんな中、今回発表された新サービスAmazon Nimble Studioでは、ワークステーションやストレージ、レンダリングファームといったリソースをまとめて構築が可能です。拡張性も兼ね備えており、クリエイターが増えてもすぐに対応ができます。セキュリティについても最高水準で構築されます。このようなクリエティブスタジオが、クラウド上にすぐに構築できるようになりました。
なお、このAmazon Nimble Studioの発表と同じタイミングで、「AWS for Media and Entertainment」が改めて紹介されています。
- Introducing AWS for Media and Entertainment
- AWS for Media & Entertainment – Helping customers reinvent the industry with purpose-built services, solutions, and partners | AWS Media Blog
Amazon Nimble Studioも含まれるコンテンツ制作分野のほか、メディアサプライチェーンとアーカイブ、ブロードキャスト、コンシューマへのストリーミング、メディア向けデータサインエスト分析、と5つの分野でのサービス、ソリューションがまとめられています。
Amazon Nimble Studioはどんなサービスか
Amazon Nimble Studioがどんなサービスか、改めて確認していきましょう。サービスページの「How it works」では以下のように紹介されています。
Amazon Nimble Studio – Amazon Web Services
ユーザガイドやAWS News Blogの内容を元にこの図を補足していきましょう。
まずはStudioBuilderという機能を使って、クラウドスタジオをAWS上に展開します。ここで展開されるものの1つが仮想ワークステーション環境です。これにはAmazon EC2を用い、インスタンスタイプはグラフィックスアプリケーション向けのGPUを搭載したG4インスタンス *3 を使用します。EC2インスタンス上ではWindowsもしくはLinuxが稼働し、好みのクリエイティブソフトウェアツールが利用可能とのことです。これらをAMIとして指定します。
ワークステーションのストレージにはAmazon FSx *4 が利用可能です。このストレージは共有ストレージとなるため、レンダリングの際にレンダリングファームからも参照されます。クラウドスタジオ内で共通して使用されるストレージですね、これもStudioBuilderにて展開されます。
レンダリングを行うコンピューティングリソース(レンダリングファーム)もStudioBuilderによって展開されます。レンダリングファームではコンピューティングリソースしてAmazon EC2を使用します。レンダリングファーム用EC2ではインスタンスタイプ(デフォルトはm5.4xlargeとのこと)やOS(Windows/Linux)のほか、スポットインスタンスかオンデマンドインスタンスかの選択も可能です。レンダリングファーム管理にはAWS Thinkbox Deadline *5が使用されます。またAWS CDKアプリケーションであるRender Farm Development Kit (RFDK)も利用可能とのことです。
またスタジオへアクセス可能なユーザの管理方法としては、AWS Single Sign-On (AWS SSO) *6 とそれにリンクしたAWS Managed Microsoft AD *7が利用されるとのことです。
Amazon Nimble Studioの使用開始までの雰囲気をつかむ
Nimble Studioを構成するリソースの概要がわかってきました。続いてユーザガイドを参考に、使用開始までの雰囲気をつかんでみましょう。
使用に際し、ユーザは管理者とアーティストの2つのロールに分けられます。前者はシステムの管理者として、スタジオのデプロイやユーザの追加などを行います。後者はアーティスト(日本語だとクリエイターのほうが馴染みがありそうでしょうか)として、実際にワークステーションを用いてコンテンツを制作します。
管理者
まずは管理者側です。管理者が新しいスタジオをデプロイするところからはじまります。
このスタジオのデプロイには、StuidoBuilderと呼ばれるアプリを使用します。
この準備段階として、まずAWS Single Sign-On (AWS SSO)を有効にします。その後、StudioBuilder AMIにアクスします。こちらはAWS Marketplaceからアクセスが可能です。実際にAWS Marketplaceで「StudioBuilder」で検索してみましょう。「Nimble Studio StudioBuilder」が見つかります。
こちらのAMIからEC2インスタンスを起動したあと、SSHで接続し、コマンドラインベースのStudioBuilderアプリを使い質問に答えていくことでセットアップするスタジオの準備ができます。この質問には、VPCのCIDRブロックやVPC Endpoint使用有無の確認、AWS Managed Microsoft ADの設定、必要なストレージ容量やスループットなどFSxの設定、またレンダリングファーム設定などがあるようです。最終的にこれらの質問にコマンドラインで答えたあと、このコマンドラインツールからスタジオを構成するコンポーネントのデプロイが開始されます。
Deploying a new studio with StudioBuilder - Amazon Nimble Studio
このStudioBuilderを使ったスタジオのデプロイには実際にはCloudFromationが用いられているようで、StudioBuilder EC2上のコマンドラインツールでの確認のほか、CloudFormationマネジメントコンソールからもデプロイ状況の確認が可能とのことです。
このデプロイプロセスには1時間ほど時間がかかり、その後、作成したAWS Managed Microsoft ADをAWS SSO IDソースとしてリンクしてスタジオのデプロは完了です。
続いて、スタジオユーザの追加(実際にワークステーションを使用するアーティストの追加)、またワークステーションやレンダリングファームにどのような起動設定(AMI等)のEC2を使用するかを決定する起動プロファイルの作成などを行います。
アーティスト
続いてアーティスト側です。
アーティスト側ではまず、スタジオの管理者からログイン情報(ユーザネーム、一時パスワード、ログインページへのリンク)を元に、Nimble Studioポータルにログインします。ログイン後、起動プロファイルを元にして自分が使用する仮想ワークステーションを起動します。この際に、タスクに合わせてインスタンスタイプも選択可能です。
Launching a virtual workstation - Amazon Nimble Studio
ワークステーションへの接続(Ninble Studioではストリーミング設定と称されます)は2つの方法が用意されています。一つ目はWebブラウザ経由での接続です。こちらはローカルのマシンにクライアントをインストールする必要はありませんが、ストリーミング品質でベストのパフォーマンスは得られないとのことです。2つ目はネイティブクライアントでの接続です。このデスクトップクライアントにはDCVが使用されているとのことで、最高のストリーミングパフォーマンスが得られるとのことです。
DCV (NICE DCV)について少し補足しておきましょう。NICE DCVは高性能リモートディスプレイプロトコルで、ハイエンドグラフィックス向けに最適化されており、HPCワークロードでの3Dグラフィクス表示などに利用されてきました。元々はイタリアのNICEという会社で開発されており、2016年にAWSに買収された、という流れがあります。またこのため2018年ごろ *8には、AWS上でNICE DCVが無償で利用できるようになっていました。
このNICE DCVクライアントなどを用いてワークステーションにログイン後は、クリエイティブソフトウェアツールを用いてシーン作成、レンダリングを行っていきます。BlenderがデフォルトでNimble Studio仮想ワークステーションにインストールされているということで、ユーザガイドにはこのBlenderを用いたシーン作成、レンダリングの方法がまとめられています。シーンの保存は共有ストレージであるFSxに保存します。
Creating your first render on the farm - Amazon Nimble Studio
Amazon Nimble Studioの対応リージョンについて
ユーザガイドなどを参考にしながら、Amazon Nimble Studioの使用開始までの雰囲気をつかんでみました。本エントリでは実際にAmazon Nimble Studioをさわるところまではできていませんが、すでにGAということで利用可能になっています。ここではそんなAmazon Nimble StudioのGA当初の対応リージョンについて確認してみます。
AWS News Blogにも記載があるとおり、GA当初の現在、オレゴン、ヴァージニア、カナダ、ロンドン、シドニー、そしてロサンゼルス(Local Zones)が対応リージョンとなっています。残念ながら現時点で東京リージョンではまだ使えませんが、対応が楽しみですね。そして個人的に非常に興味深い点としては、通常のAWSリージョンではなくAWS Local Zones *9としてロサンゼルスがサポートリージョンに含まれていることです。
個人的な推測ですが、コンピュータグラフィクス作成時、ワークステーションとの操作遅延は重要な要素かと考えます。このためより遅延の少ない、AWS Local Zonesでも利用可能になったのかと思っています。AWS Local Zones発表時(re:Invent 2019)から、メディアおよびエンターテイメントコンテンツの作成時のユースケースで、1桁msの遅延を実現する、というアピールもされてきました。 *10
まとめ
AWSクラウド上にコンテンツ制作のためのクリエイティブスタジオをサクッと構築できる新サービス、Amazon Nimble Stuidonについて、速報としてまとめてみました。今回のエントリでは(私がクリエイティブツールを使ったことがない、ということもあり、)実際にサービスを使わず、ユーザガイドなどからのサービスの俯瞰にとどめましたが、これまでクラウド上でのクリエイティブスタジオ構築に必要だった個々のリソースの作成が、Amazon Nimble Studioを使うことでまとめて構築することができ、これまでよりも容易に、迅速に、そして拡張性やセキュリティを保ちながら構築ができるようになったかと思います。実際には、EC2やVPC、FSx、SSOやDirectory Service、Thinkbox Deadline、それにNICE DCVまで、様々なAWSサービス群が組み合わさっているようです。これらの構築がまとめてできる、非常に有用な新サービスではないでしょうか。 *11
脚注
- [レポート] CMP203: クラウドの中のスタジオ: AWS上でのコンテンツプロダクション #reinvent | DevelopersIO ↩
- Home | AWS Thinkbox ↩
- Amazon EC2 G4 インスタンス – アマゾン ウェブ サービス (AWS) ↩
- Amazon FSx | 機能が豊富で高性能なファイルシステム | アマゾン ウェブ サービス ↩
- AWS Thinkbox Deadline | Render Farm Manager | AWS Thinkbox ↩
- AWS Single Sign-On(クラウドシングルサインオン (SSO) サービス)| AWS ↩
- AWS Directory Service(Active Directory のホスティングと管理)| AWS ↩
- 【AWS上なら無償】3Dアプリの高速リモートアクセスを提供するNICE-DCVを触ってみた | DevelopersIO ↩
- AWS Local Zones (レイテンシーに敏感なアプリケーションをエンドユーザーの近くで実行) | AWS ↩
- re:Invent2019でのMedia & Entertainment向けリリースとローンチを振り返ってみる #reinvent | DevelopersIO ↩
- そういえば、AWSサービスとしては3つ目のStudioと名のつくサービスでもありますね。 ↩